| 開催月日 | 5月22日(土) | 開催市町 |
村岡町 |
| テーマ | 牛と暮らす家屋 |
||
| 講師 | 諏訪 浩、つるの(畜産農家) |
||
| 場所 | 諏訪家 村岡町熊波 | ||
| 参加者 | 島垣・和田・浜野・中田・友田・池口・中尾・藤原次・戸田・湊崎・太田 | ||
| 担当 | 藤原ひ | ||
![]() |
![]() |
■ 妻と牛とともに歩んだ人生 牛を飼い始めて50年余り、諏訪さんのそばにはいつも愛牛ともの静かな奥さんがいた。但馬牛の原産地・村岡町の中でも特に牛飼いが盛んな熊波集落で、 二人は穏やかに暮らしてきた。諏訪さんは81歳、冬は75歳まで造り酒屋に出稼ぎしていた。奥さんは82歳。今では町内最高齢の畜産農家となった。 昭和50年ごろまでは3頭飼っていたが、現在は9歳の雌ふくはな号1頭だけ。「とにかく牛が好きなんです。子どもの時分から勉強するより牛の世話ば かりしていました。5月9日にオナメ(雌牛)が生まれました」と嬉しそうに子牛を眺める。 |
|
![]() |
![]() |
■ 牛飼いの暮らしになじんだ家屋 熊波集落は国道9号、春来トンネルへの上り坂から村全体が見渡せる。急峻な山に囲まれた谷間に家々が寄り添い、美しい棚田が広がっている。 時間の流れが止まったように、但馬でも珍しい山村らしいたたずまいが訪れる者をほっとさせる。村の奥の方、細い村中の道を入ると諏訪さんの家 にたどり着く。特に大きな家屋というわけではないが、きちんと並んだカツラ石を土台にどっしりと立つ。前庭には大きな柿木と孟宗竹の柵で囲わ れた牛の繋ぎ場がある。広い間口、長い縁、太い平物(柱)と土壁、昔のままの建具や戸袋。長年の風雪に耐え静かに生活を守ってきた「母家」の 存在感がある。家屋は農村の伝統的な「田の字型」。玄関横にあるマヤのカンヌキから子牛が顔を出し、親牛は寝そべったまま静かに反芻を繰り返 している。 |
|
![]() |
![]() |
玄関を入ると、磨き抜かれた土間にワラ打ちの石が埋め込まれている。「これが一番いい」と奥さんが言うワラぞうりがきちんとそろえられている。 土間の引き戸を開けると座敷の間からマヤの様子が見える。マヤの天井には穴が開いていて、二階のワラ置場から直接飼料を投下できるようにもなっ ている。2階の全室がかつては蚕室として使われていた。玄関の壁にはツバメ専用の出入り口がポッカリあいている。家全体が明るいうえに風通しが よく、牛の臭いや空気がこもっていない。主張はしなくても、この家屋は人と牛や蚕などが同居するのに必要十分な機能をしっかりと持っている。 |
|
![]() |
![]() |
諏訪さんご夫妻の話を伺うため、座敷に上げていただいた。「この家を建てたのは昭和9年。材料は全部、木挽きさんがヨッサヨッサいいながら、うちの 山から出しました。隣の大工さんが棟梁で村中の人が集まって建前をしました」。黒光りする太い大黒柱、磨かれた上がりとのぶ厚い板、いずれも材は欅。 一枚板の戸、華美を嫌った欄間の細工、やわらかな春の薄日が差し込む障子戸、十分に幅の広い縁、奥の間の端正な床や書院。すべてに何ともいえない落 ち着きがある。部屋に不必要な家具や物が一切置かれていないことも、居心地のよさを一層感じさせている。 | |
![]() |
![]() |
但馬学会員が、この家屋は地域の風土に根ざした貴重な財産であることを力説するが、何十年もあたりまえに暮らしてきた諏訪さんにとって、それへの答えは そっ けない。ある会員が「牛(生き物)と暮らすということを、初めて実感した」と言った。 |
|
![]() |
![]() |
■ 日本家屋の心地よさ、暮らし方が家屋を形づくる 晴天の初夏、外はやや汗ばむほどの暑さにもかかわらず、家の中は涼やかな風が通りとても心地よい。ついには、縁側で昼寝を始める会員も出た。家の 造りもさることながら、諏訪さんご夫妻の穏やかな人柄、そして無駄なものを持たず求めず、あくまで質素に素朴に静かに暮らし続けることのすばらしさ。 本当の豊かさとは一体何なのか・・・。牛を愛し50年余り何一つ変わらない暮らし方を続けてきたからこそ、この家屋と懐かしく心地よい空間がそのま ま存在している。 あふれるほど物に囲まれて暮らす私達に、「暮らし」の原点を見させてくれたような1日だった。 |
|